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初夏ならではの絶景、
萌え始めの新緑のあちこちに陽に照らし出された木花の白がそれは鮮やかな、
郊外地の某氏の広々とした別邸にて。
ドラマの撮影を控えて朝の散策中だった、いつもの4人だったものが、
広大な庭の一角に覚えのない茂みの小径が開いているのへ気づいた敦少年。
何だろうなと小首を傾げていたものが、いきなりその小径へ飛び込むように駆けだした。
本人も “なんだろう?”と不審がってたはずなのに、
何を嗅いだか はっとしたかと思うや、
弾かれるように大きく踏み込み、そのまま全力疾走しだしたものだから、
すぐそばに居合わせたお仲間の面々もぎょっとしたほど。
彼らには背中しか見えないので届かなかったものの、
その口元は小さく震えており。
「……あにさま。」
縋るよな切ない呟きが、はらりと落ちて散ってゆく。
『……だ。案ずることはない。
槇野殿に託したのは私だから。』
ときどき寝入りばなに聞こえていた声。
懐かしくって切ない、何とも不思議な響きのする声。
押し寄せる深い眠りにちぎられてしまうのか、
目が覚めると思い出せぬ声の、
その同じ気配が随分と間近にあると判る。
届きはすれど歯がゆいほど遠かったものが、すぐそこに。
そうと察知した途端、脚が体が勝手に衝き動かされている。
もう置いて行かれるのは嫌だと、そんな切なる思いのままに…。
一方で、
「こんなに深い木立? 生垣だったかな?」
「…確かに。」
彼自身も銀の髪をいただく色素の薄い存在なものだから、
左右にそびえる緑の壁の中、見失うどころかそれは目立っての鮮やかな印象が立ってはいるものの、
あとに続いている格好の中也や太宰が別な不審をこぼすように問い合う。
以前にもお邪魔したことのある別邸で、彼らとしては庭先も結構あちこち知っている。
なので、こうまで走って突き当りが見えても来ないのがちょっと意外。
すぐにも外周に巡らされたフェンスか、作業道具を収納しているらしい建物が見えてくるはずだのに、
瑞々しい緑の障壁は延々とどこまでも続いている感があり、
「確かこの方向だと…。」
芥川が想起したのへの呼応のように、行く先で茂みがやっと途切れ、開けたところに出た。
陽を受けて柔らかく映る手入れのいい下ばえが、緑の絨毯のように敷き詰められたそこには
やや古びて落ち着いた佇まい、柱と屋根と縁台のようなベンチがしつらえられた、
和風の四阿(あずまや)のような、簡素だが趣のある建物が見えて。
古びてはいるが手入れはなされており、
以前の滞在時にも、昼食なぞ頂いたり、陽が沈んでから夕涼みにと運んだりもした場所。
記憶通りの居住まいであったが、そこに先んじるように居た存在にぎょっとして目を見張る。
“え…。”
そこには片膝たてて縁台へ座していた人物がいて。
自分たちを招いた主人にあたる人はお忙しいか不在だったが、
撮影班のスタッフとそれから、ほかにも住人というかお世話してくださる方々がいたし、
顔合わせをしたので一通り知った顔ばかりのはずが、
そこにいたのは、しいて言えば平安朝の狩衣に似たいでたちの青年で。
……初めて顔を合わせた存在だ。
そんな仰々しい衣装を、だがずんと楽そうに着慣らしており、
自分たちとさして変わらない年頃だろうに、不思議な威容があって存在感が違う。
そんなはずはないのに、ここの主人だと言われても遜色ないよな
それは落ち着いた雰囲気をまとう青年で。
しかも…不思議なことに、初対面に違いない感触しかしないのに、
向こうも“何だ何だ”と目を見張っているというに、
よくよく見やると覚えがある顔や背格好でもあって。
赤い髪に、色味は濃いがそれでも澄み渡った青い玻璃のような双眸
突然現れた此方へ怪訝そうな顔をするその精緻に整った面差しも、
頬骨も張らず、するんとした白い頬も、
今の今、共にいる誰かさんと随分と似通っている。
それということに後から気づいた彼らであり、
似た器に違う人格が収まっているが故の違和感というのだろうか、
初対面の人物という感覚が、違和感にまみれて混乱を誘う。
そんな想いは相手にも同じなようで、
利かん気そうな細い眉をきゅうとしかめた彼だったが、
「……っ。」
不意に何かの気配を嗅いだらしく、はっとして縁台から立ち上がったと同時、
そちらに間近い宙空へ突然滲み出すよに現れた別の存在があり。
ぎょっとしたこちらにも構わず、彼らでの会話が紡がれる。
「あかつき、嗅いだか?」
「はい。」
やや醒めた緋色の小袖に黒地の筒袴姿の少年の風貌は、
年恰好と言い、銀色という淡い色合いの髪と言い、
距離を置いた先を行く敦と重なりかかるそれ。
しかもしかも
先進のプロジェクションマッピングでもここまで実体感のある映像は無理だろうという出現で。
彼らがそうと思ったのは、
あとから現れたほうの少年はその身を浮かせたまま、
なんの不自然もないままに宙をかけって見せたから。
それは張り詰めた表情をしていて、
短いやり取りはそれほど意を通じ合っている彼らだからでもあったろうが、
それ以上に一刻を争う事態ゆえという逼迫も沿うており、
「……。」
彼らにとっても何かしらの異変が…それも不穏なことが起こっているようで。
それへの緊張をはらんだまま、
二人となった少年たちが駆けてゆく先へ、赤毛の狩衣姿の彼も宙を飛ぶような俊足で翔けってゆく。
あとに続いた3人も駆け込んだその先には再びぽかりと開けた空間があり、
彼らを導いた迷路の壁のような生け垣がほぼ円形に取り巻くそこへ、
「……あれは。」
先に駆け付けた双生児のような銀髪の少年二人が見上げた中空、
光とも霧ともつかない繭のような膜にくるまれた人物が
何の支えもなく中空に浮かんでいる光景を見ることとなる。
やっと立ち止まった先陣組が見やる中、
それはそれはゆったりと降りてきた存在は、
意識がないのか瞼を閉じており、四肢を力なく投げ出している。
やはり、どこか不思議な装束をまとっていて、しかもあちこちかなり損傷してもいる。
しいて言えば中華風の導師服というものか。
ガードのためか顎先が隠れるほどカラーの高い詰襟に、膝下まであろう長衣、
厚い生地らしき道着と、筒袖の内着に筒袴を合わせていて、
腰には鞘付きの長剣を挟んだ帯を佩いている。
そんな衣紋のみならず、覗いている四肢やら顔やら、痛々しい瑕疵が隙間なくまぶされていて。
何かしらの争いごと…戦いの中で重度の傷を負った身なのだろうと見受けられ。
そうまでな状態なのを、何物かが思いやってなのか、それとも自己の防御効果なものか、
背を覆うほどの長い漆黒の髪を水中の水草のように揺らめかせつつ、
ゆらりゆらりとゆっくり下降を続けており。
やっと待ち受ける此方からも手が届こう距離にまで降り来たったが、
そのまま…ふわりと軽やかに中空に浮かんだままなのがこれもまた奇妙な現象であり。
そんな存在へ、
「兄様っ。」
縋るような表情で呼びかけたのが、どこか敦に似た風貌の小袖の少年だったが、
不思議なことには目に見えぬ抵抗が生じているらしく、
触れようと伸ばした手が、だが、何かしらの反動付きで押し返されていて。
何度触れようとしてみても、かざすのがせいぜいで触れるまでへも至らぬ様子。
“障壁、結界かな?”
何しろ、そういった不思議な“術式”をあやつる祓師を演じているところ。
なので、敢えて言うならそういう事象なのかなぁと、
やや他人事のように見守っていた中也や太宰より、彼ら寄りなところに立っていたもう一人。
彼もまた何かに呼ばれるように駆け出した身であり、
今は衝動もやや醒めたか、ただただ立ち尽くしていた敦だったのだけれど、
「……。」
淡く光ったまま宙に浮かんでいるその人物へ、
彼もまたおずおずと手を伸べて見せたところ、
「え?」
「…おや。」
何故だか敦の手は通る。
通ったのみならず、触れた存在が少しずつ浮力を削がれてゆくらしく。
それが伝わるのだろう、敦もあわてたように触れた相手の腕を引き、
痛々しい怪我がそれ以上傷まぬようにと、おずおずとながらも自分の懐へと引き寄せてゆく。
小柄に見えても、そこは格闘技の鍛錬を積んでいる身だし、
彼より身長はありそうな相手だが、不思議な浮力が消え切ってはないものか、
膝下と背へ腕を添えて支えるのへも大して負荷がかかってはないようで。
「えっと…。」
そんな経緯へ、だが敦もどこか戸惑っているようで。
おろおろとした視線を向けてくる彼なのへ、
理解した上での行動ではなさそうだと察した赤毛の貴人。
傍観者と化していた太宰や中也を振り返り、
「そこの客人らとともに広間で待て。」
呆然と焦燥を綯い交ぜにしたような表情で立ち尽くす小袖の少年へ、
顎をしゃくって指示を出す。
ハッとする彼も、逆らえない相手なのか、
「……鵺。」
「ああ。」
いつの間にか背後に現れていた黒髪のやや年かさな青年に肩を促され、
しょんもりと焦燥した様子ながらも言われたとおりに従う模様。
踵を返し、客人らを視線で促すようにして、生け垣の小径へ戻ってゆく背を見送ってから、
「さて、そこの坊主。主には手伝ってもらうぞ。」
「…はい。」
to be continued.(26.05.12.〜)
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*どういうわけだか、原作漫画の世界とつながってしまっております。
そんな混線が、敦くんの記憶への蓋になっていたのでしょうかね?

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